栗田読書倶楽部Web通信

2009年(平成21年)12月01日

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− 特  集 −
「読書」は苦手、という人のために・・・
以前、図書館司書の友人と「どうしたら本を読んでもらえるか」ということを話していたときに、「あえて小説を外す」という意見がありまして、今回はそうした「読書」へのきっかけにつながるような本を紹介します。
 ●『ないもの、あります』(クラフト・エヴィング商會 ちくま文庫)

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 架空の会社「クラフト・エヴィング商會」が扱っている商品カタログ、という体裁をとっている本書ですが、出てくる商品はどれも摩訶不思議なものばかり。
 いくつか例を挙げてみると、たとえぱ「助け舟」という名の船だったり、「堪忍袋の緒」という名の紐だったりと、ふだん私たちがよく耳にする慣用句をそのまま商品として売っているのですが、なかには「思う壺」とか「左うちわ」とか、何の役に立つのかよくわからないようなものまで扱っているところが、遊び心溢れる本書のミソです。
 あくまで商品カタログなので、ちゃんと商品イラストもついています。そのぶん、文章も少なめで、読書初心者にはうってつけの一冊です。
 ●『ナンシー関の記憶スケッチアカデミー』(ナンシー関編 角川文庫)

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 与えられた「お題」に対して、記憶だけを頼りに絵を描いて投稿するという「通販生活」の投稿コーナーをまとめた本ですが、とにかく投稿された絵が似ていない。まるでエイリアンのような「カマキリ」や妙にふてぶてしい「ペコちゃん」、犯罪者のような「サンタクロース」などなど、いかに人間の記憶が当てにならないかを思い知らされます。
 また、作品に対するナンシー関のコメントも絶妙で、本書の面白さは編者であるナンシー関の裁量によるところも大きいです。せっかく人が本物っぽく見せようと悪戦苦闘しているのに、その努力がまったく報われていないというギャップが、また笑いを誘うという、まさに笑いのスパイラル!
 ふだん偉そうにしているあの人も、記憶だけで絵を描けばこんなもんだ、という意味では爽快な味わいを残す一冊です。
 ●『ピクトさんの本』(内海慶一 ビー・エヌ・エヌ新社)

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 「ピクトグラム」という言葉をご存じでしょうか? ふだんいろいろな場所で、私たちの代わりに危ない目や痛い思いをして、私たちに事前に危険を知らせてくれるマークのことですが、そんな彼らのある意味涙ぐましい活躍(?)を紹介しているのが本書です。
 転倒、頭打ちはもちろんのこと、感電したり挟まれたり轢かれたり墜落したりと、まさにいろんな危険に体を張っている「ピクト」さん。こんなに種類があるんだという驚きもさることながら、まるで彼らに人格があって、どころか種類による優劣や矜持があるかのように紹介している文章も秀逸です。
 ページを読んだら最後、きっと街中の「ピクト」さんの活躍が気になって仕方がなくなること請け合いの本です。
− こまぎれの時間でも楽しめる本 −
 読書は好きなんだけど、仕事や育児など、ふだんの生活が忙しくてなかなかまとまった読書の時間が取れない、という話をよく聞きます。そんな人たちのために本を紹介するなら、やはり章による区切りが多いエッセイ集なんかも有効じゃないかと思うのです。
 たとえば岸本佐知子の『ねにもつタイプ』。一風変わった海外小説の翻訳などをしている方のエッセイなのですが、翻訳の仕事のことなどはほとんど書かれていません。では何が書かれているかというと、日常のなかでふと陥ってしまう妄想だったりするのですが、その妄想が、いかにも私たちもやってしまいそうなものであるだけに、妙な愛着が湧いてきます。
『ねにもつタイプ』
(岸本佐知子 筑摩書房)
『AV女優』
(永沢光雄 文春文庫)
 タイトルとしては圧倒的なインパクトのある永沢光雄の『AV女優』は、AV、つまりアダルトビデオに出演した女優へのインタビュー記事をまとめたもの。しかしその内容はけっして軽薄なものではなく、あくまで彼女たちをひとりの人間として、まさに一対一の対話を実現しようとする著者の姿勢には頭の下がる思いがします。男子はもちろん、女子であっても一度は読んでみて損はない本です。
 最後は味わい深いエッセイ集として、向田邦子の『父の詫び状』を紹介。戦前や戦中の思い出を語ったものが多いのですが、それが古臭いというよりは、どこか懐かしさを感じさせるものとして胸に迫ってくるものがあります。
 とくに、著者の父親のことを書いたものがいい味を出しています。典型的な頑固親父ではあるが、威張ってばかりいるかと思えばどこかユーモラスだったり、いざという時にてんで役に立たなかったりといった部分が、たまらなく人間臭いです。
『父の詫び状』
(向田邦子 文春文庫)

   

◆◆ 結婚する友人知人に贈る本 ◆◆


吉野弘詩集

【吉野弘 ハルキ文庫】

 贈り物として本を選ぶというのは、読書家であれば一度はやってみたいと思うもの。しかし、いかにも読書家として気のきいた、しかしTPOをきっちりわきまえつつ、かつ相手もある程度喜んでくれるような本を選ぶのは、じつはこのうえなく難しいものだったりする。
 逆に言えば、そうしたイベントが発生するときにどんな本を選ぶことができるのかが、読書家としての真骨頂でもあるわけだが、今回紹介する『吉野弘詩集』は、こと「結婚式」というイベントにおいて、その真の威力を発揮する詩集だと言ってもいいだろう。その理由は、本書のなかに収録されている「祝婚歌」という詩のなかに集約されている。
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派過ぎないほうがいい
立派過ぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
 もしかしたら、仲人あたりがこうした言葉を語るのを耳にした方もいらっしゃるかもしれない。あれの作者が吉野弘です。他にも彼の詩は日常のことやめぐる季節のこと、言葉のことなどをいくつも詩に詠んでいて、そのひとつひとつが心のくぼみにコトリとはまるような味わい深いものばかり。結婚のお祝いに、この詩集とともに「結婚生活にちょっと疲れたら、どこでもいいから開いて読んでみるといい」なんてセリフを加えて渡してやれば、その方面では一目置かれること間違いなしだ。

 え、私? ただ今恋人募集中の三十六歳独身男性ですが、何か?