栗田読書倶楽部Web通信

2008年(平成20年)8月4日

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− 特  集 −
真夏のホラー特集で一服の涼を
というわけでホラー特集ですが、一部かえって熱くなりそうな記事も・・・
 『ぼっけえ、きょうてえ』(岩井志麻子 角川ホラー文庫)

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 発売当初こそ「ぼっけえ、きょうてえ」は意味不明なタイトルだったけど、今では一番有名な岡山言葉かも知れない。怪奇小説の名手、岩井志麻子の名を上げた作品である。
 時は明治、岡山の女郎の一人語りで物語は淡々と進む。語り口は岡山弁で、女郎は客になった男に「きょうてえ話」をせがまれて身の上話を始める。山奥で堕胎を専門にした産婆の母から生れたこと、双子で生れたばかりのころに川に捨てられたこと。丈夫だったために捨てられた川で二日も生きながらえ、自分だけ捨てた母に拾われて助かったこと。
 過激な表現など一切ないのに、岡山弁ののんびりとした語りが、読んでいるうちに背後に誰かが忍んできたかのような「きょうてえ」雰囲気を醸し出してくる。そして、次第に明らかにされていく、女郎の抱えている秘事、それ以上に「きょうてえ」秘密とは。
 この「ぼっけえ、きょうてえ」では他の二篇も含めて岡山弁全開であるが、岡山に移住して一年以上になる筆者から見ても、現在の岡山ではあまり岡山弁を聞かなくなっている。街で道でも聞けば、きれいな標準語で丁寧に教えてくれるだろう。
 「ぼっけえ」とは「とても」という意味であるが「でえれえ」の方がまたポピュラーだし、「ぼっけえ」というのはラーメン屋の名前くらいのものである。ましてや「きょうてえ」(怖い)なんて言う人はもういませんよ、ととある取引先で言われてしまった。
 もはやない、ノスタルジーな、妖怪などが闊歩していたような闇の多い明治の岡山が、語り部とも言うべき女郎の岡山弁がよって蘇えらされているのだ。
 話は変わるが、先日筆者が妻女に運転させて買い物に行った帰りであるが、あまり、というか運転の上手くない彼女はハンドル操作を誤って中央分離帯に衝突しそうになった。
 間一髪で中央分離帯をかわした妻女はこう、のたまった。
 「あんた、今のは、きょうてかったじゃろ。あたしもぼっけえきょうてかったわー」
 きょうてえ人、近くにおったが。(呑寿庵)
 『BOX!』(百田尚樹 大田出版)

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 まだまだ梅雨模様。ジメジメして毎日すっきりしません。「なんか、スッキリしないなぁ」と日々の生活を送っている方々、朗報!です。早くも今年度No.1小説が刊行されました。
 太田出版「BOX!」(百田尚樹 著)です。これさえ読めば、梅雨空のモヤモヤ感もスッキリします。内容は、ずばり青春ボクシング小説。舞台は大阪の高校ボクシング部。「え−、ボクシングなんてしらなぁ−い」という方でも大丈夫。読んでみて面白くなかったら、お金返します!当倶楽部社外顧問の信水舎 飯塚店長から、つぎのような過激?な注文書用のお便りを頂いております。「東野圭吾・宮部みゆきをはじめとするベストセラ−作家さん、ごめんなさい。ついに、あなた方を超える作家が登場してしましました。本屋大賞とか直木賞とか騒いじゃいるけど、格が違います。大阪府下の高校ボクシング部を舞台にした小説です。簡単には伝えられないのが、もどかしいのですが、「火車」「容疑者Xの献身」などを超える内容と細部描写で心を打ち砕きます。この本を売らずに「書店です。」とは言えません。(知らなきゃハジです。)永遠のゼロと併売しましょう。」
 いやはや、過激。でも、このくらいインパクトのある本です。現在、書店様からの受注も開始しており、はやくも300部近い受注がありました。是非、ご一読を。
 最後に、この本の泣かせるセリフ(主人公の木樽と、木樽が恋する高津先生との会話)を抜粋します。

「本当の才能というのは、実は努力する才能なのよ。努力といっても、苦しんで、苦しんでしんどい思いを克服してやるのは違うの。さぼりたい気持ちを抑えつけないと努力出来ない人は才能がないのよ。本当の天才って、努力を努力と思わないの。」「努力を努力と思わない−ですか」「そう。それが楽しいからする、好きだからする、面白いからする、という人が本当の才能の持ち主なのよ」
(フィンガー&パーム)
− 夏といえばホラーでしょ −
 来るべき日本の夏に向けてホラー小説の紹介をすべきだろうと思うのですが、見るからに痛そうなのやスプラッタ系は大の苦手なので、雰囲気としてのホラーを楽しめるような作品を中心に紹介します。
『夜市』
(恒川光太郎 角川ホラー文庫)
 まずは恒川光太郎の『夜市』。この世ならざるものたちがこの世のものではないものを売買する「夜市」という異空間が、いかにも怪しげな雰囲気をかもしだす作品ですが、一度入り込むと、何か買い物をしなければ出ることができないなど、異界なりのルールが存在するところが物語のミソとなります。金があればなんでも売買できる「夜市」――それこそ「若さ」でも「才能」でも、あるいは人間でさえも・・・。
 つづいて道尾秀介の『向日葵の咲かない夏』。これは夏休み直前に自殺した同級生の謎を追うという意味ではミステリーですが、自殺したはずの同級生が蜘蛛に転生し、自分は殺されたのだと主張するというホラーめいた展開となります。この作品、最後にそれこそすべてがひっくり返るような仕掛けが施されているのですが、その仕掛けに驚かされると同時に、ぞっとさせられることも請け合いなので、ぜひ最後まで読んでほしいところです。
『向日葵の咲かない夏』
(道尾秀介 新潮文庫)
『首無の如き祟るもの』
(三津田信三 原書房)
 最後に三津田信三の『首無の如き祟るもの』は、横溝正史の怪奇ミステリーを彷彿とさせる内容で、地方の山奥にある村で起きた連続殺人事件、それも首無死体が何体も発見されるという事件を巡るもの。例によって「淡首様の祟り」といったホラー要素が満載ですが、ミステリーとしてもこのうえなく素晴らしい出来栄えなので、ミステリー好きな人にもお勧めです。
 でも個人的には、真保裕一の『ホワイトアウト』なんかを読んだほうが、よっぽど涼しくなりそうなんですが。