栗田読書倶楽部Web通信

2007年(平成19年)5月22日

最新号    ◆栗田読書倶楽部とは?    ◆過去の記事一覧    ◆ホーム

− 特  集 −
新しい環境に挑戦
この春から社会人になった人、新しい環境に変わった人、初心に戻ってみよう。
 『オトナ語の謎。』(糸井重里 新潮社文庫)
 4月は入学、入社のシーズンということで街は初々しい顔をしたフレッシュマンであふれはじめます。入社した当時を振り返ると、毎日が新鮮な一方で、初めて経験することばかりで不安だったことを覚えています。もちろん社会人になれば、社員研修もあり、書店のビジネス書コーナーへ行けばビジネスマネーの本には事欠きません。しかしそれだけでは会社社会を理解することはできません。社会では真面目なビジネス書や研修ではけっして習わない謎の言葉がたくさん使われているのです。それについて、解説した本が「オトナ語の謎。」です。昨今、若者の言葉の乱れが叫ばれていますが、「オトナ」の社会ではこんなにも変な言葉が使われているということに気づきます。すでに会社で働いている人が読めば、自分が無意識に使っていた言葉を見つけ、ニヤリとするでしょうし、これから社会人になる人が読めば、本当にこんな言葉を使っているのかと疑問に思うでしょう。でも本当に使っているのです。私自身8割は実際に聞いたことがある言葉です。
 しかも巻末には、索引やオトナ語センター試験もついており、以外に実用的?な本でもあります。これから社会人になる方も、現役の社会人の方にもお勧めです。(Mtまる)
 『ロス・プリベンション』(山内三郎 メディアパル)
 新しい環境に飛び込んでいく新入生、新入社員のまだ馴染んでいない学生服やスーツ姿が微笑ましい季節になりましたなあ。またさわやかなことばかりでなく、やれうつ病や五月病やと新しい環境に適応できない面々がいらっしゃるのも事実。ストレス発散やスリルを求めた「万引き」(実際窃盗犯ですよ)、春だからとかいって手を染めちゃあ敵わない。
 窃盗のロスもロスですが、棚卸しで発覚するロスはすべて窃盗によるものなんですかね。これが実際そうとばかりも言えず、「社内不正」「伝票管理の不徹底」というのも原因にあげられるらしい。
 なんて、あっしが急に賢しげなことを自分で思いついたように語っておりやすがね、実際には全部受け売りでございまさ、へへへ。種は「ロス・プリベンション」という本でやしてね、これがあっしのようなビジネス書を読むと眩暈・頭痛にひきつけまで起こすような無学な野郎にもめっぽう読みやすい。
 この本は物語形式になっておりやしてね、全国100店舗を成し遂げたばかりのドラッグストアチェーンの二代目が、親父である社長に店舗が増えており、売上が上がっているのに利益が出ていない、どういうことか、調べてこい、といわれて調査に乗り出すことから話がはじまりますんで。
 これで調べてみると問題が出るわ出るわ、て出なきゃ話にもならないわけですがね。商品を横流しして帳簿をごまかしてた店長とそれを強要したスーパーバイザーまで見つかったり、お店の表示価格とレジの入力金額が違っていたり、それをまた棚卸しでごまかそうとしていたり。
 これはすべて二代目が見つけたわけでなく、社長に紹介されたロスの改善専門家にコンサルティングされて洗い出されたってわけでさ。これが驚きなのが、この本によると、アメリカの統計なんですがね、商品ロスの約半分が社内不正だってから、これじゃあいくら売っても儲かりませんわな。そういやあ、以前日本にあるアメリカの会員制スーパーに買い物に行ったら、出口でレシートと商品を検品してたっけ、なあ。アメリカじゃ、人を見たら泥棒と思え、てんですかね。
 そんで、万引き(窃盗)に対しては捕まえたときの対応を考えるよりも、窃盗をさせない接客をしよう、て説いてますな。怪しい客の服装や動き、店の死角をチェックして、その対応をしっかりやる。例えば、怪しい客には挨拶などでけん制する、店の死角は必ず店員が通る道に指定して行き来を頻繁にしたりね。
 言うのとやるのじゃあ、大分違いはあるかもしれねえけど、危険を冒して捕まえるより、まずは窃盗をさせないように気を配るってのは納得がいったってもんよ。(呑寿庵)
− 新しい世界へ飛び込んでいく小説 −
 去りゆく者、集まり来る者――昨今、団塊世代の大量退職が見込まれていたり、若者の就職率が厳しかったり三年以内の離職率が高かったりするそうだが、まあそれはそれとして、この時期、これまでとは違った環境に身を置くことになる人々が多いというのも事実なので、今回はそれつながりの作品をいくつか紹介したい。
『都立水商!』
(室積光 小学館文庫)
 まずは室積光の『都立水商!』。これは、世界初の水商売専門の都立高校で起こる悲喜こもごもの人間ドラマを描いたもので、生徒たちはもちろんのこと、先生たちもみんな手探り状態、という意味では、まさに新しい世界に果敢に挑戦するフロンティア小説の側面もある。これまでとまったく異なる環境、そして水商売に対する偏見といったマイナス要素をプラスに逆転させる力強さは、読者に元気と勇気をあたえてくれること請け合いである。
 新人の初々しさを描いた作品として印象深いのは、今年の本屋大賞にもノミネートされている有川浩の『図書館戦争』。超法規的検閲機関から書籍を守るため武装した図書館という、SF的要素の強い作品ながら、その図書館に新しく配属が決まった笠原郁の、図書館への強い憧れゆえの熱血ぶりがじつに微笑ましい。理想と現実とは違うというのはどこの世界でも同じだが、こうした新しい息吹が感じられるのもこの時期ならではだろう。
『図書館戦争』
(有川浩 メディアワークス)
『一応の推定』
(広川純 文藝春秋)
 新しく入ってくる者がいれば、逆に出ていく者がいるのも必然のことで、広川純の『一応の推定』に登場する村瀬努は、保険調査事務所でまもなく定年を迎えるベテラン調査員という設定である。ある死亡原因調査がメインとなる本書のなかで、ベテランならではの矜持で事の真相へと迫っていく様子は、新人とはまた違った意味で熱いものがある。
 ところで、私といっしょに新しい家庭を築いてくれる「新人」はまだ見つかってません。私にとっての「春」はまだまだ遠い――お後がよろしいようで。