栗田読書倶楽部Web通信

2007年(平成19年)3月12日

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− 特  集 −
2007年本屋大賞
読書倶楽部推薦書発表!
本屋大賞の発表はまだですが、それとは無関係に読書倶楽部メンバーがオススメするベスト3を発表します。
 第1位:『失われた町』(三崎亜記 集英社)
 何万もの人が「死ぬ」のではなく、「失われる」――三十年に一度の周期で起こる、ひとつの町の住人が忽然と消滅してしまうという理不尽極まりない現象を物語の中心にすえた本書では、町の消滅とかかわることは、「穢れ」として人々から忌み嫌われている。そして町の消滅という現象は、その被害拡大を防ぐという目的で、管理局による徹底した情報統制が行なわれる。つまり、その町の存在も、そしてそこに住んでいた人々の記録も、すべて「はじめからなかったこと」にされてしまうのだ。
 死んだのではなく「失われた」のだから、その人のことを悲しむことは許されない。本書に登場する人たちは、いずれも「町の消滅」によって大切な人を失ったという共通点をもつ。写真一枚すら残すことのできない状況のなかで、彼らに唯一残されているのは、消滅した人たちの「想い」だけ――本書が何より感動的なのは、そうした人々の微かな、しかし純粋な「想い」がどのように人々をつなげ、そして次の「町の消滅」を食い止めるための大きな力として熟成していくか、という静かなダイナミズムだと言える。
 なぜ本書が直木賞を取れなかったのか、不思議で仕方がないほどの大作。ぜひ読んでほしい。
 第2位:『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦 角川書店)
 愛しの黒髪の乙女にひと目惚れした純情青年は、なんとか彼女とお近づきになりたいと「ナカメ(なるべく彼女の目にとまる)作戦」を決行するが、そのたびに奇想天外な事件に巻き込まれ、さんざんな目に遭ってしまう。しかも、当の本人はいっこうに彼の想いに気づいてくれない――そんなストーカー行為、いやいや涙ぐましい努力をコメディータッチで描いた本書は、わかりやすく言えば高橋留美子の漫画「うる星やつら」の世界である。
 なにしろ、くしゃみひとつで竜巻も起これば、空から大量の錦鯉も降ってくる。登場人物も、浮ついた生き方で飛行術をマスターした男だの、願掛けとして一年間もパンツを換えていないパンツ総番長だの、真夏に激辛鍋を食わせて楽しむSっ気まんまんの好々爺だの、ひとクセどころか、クセがありすぎて人間離れしてしまったヤツらばかり。そんな何でもアリの世界で、なぜか大正浪漫風なタッチの純愛劇を演じるというシュールさが、他にはない独特の世界を生み出している。
「さっさと告白しちまえよ!」とか「いいかげん気づいてやれよ!」とかいうお約束を心ゆくまで堪能してほしい作品。なお、黒髪の乙女がとんでもない酒豪なのは、ご愛嬌。
 第3位:『鴨川ホルモー』(万城目学 産業編集センター)
 京都において、長きにわたって秘密裏に繰り広げられてきた恐るべき競技――それが「ホルモー」である。「ホルモン」じゃなくて、「ホルモー」ね。なんで「ホルモー」と伸ばす発音なのかは……あまりに恐ろしくて、とても口では言い表せません。
 どうやらその競技は、敵味方が十人ずつ、計二十名で争われるらしい。
 どうやらその競技は、「鬼」とか「式神」とかいった存在を使役して行なわれるらしい。
 どうやらその競技は、大学のサークル活動を隠れ蓑にして競技者を集めているらしい。
 どうやらその競技に参加するには、いろいろな試練を乗り越える必要があるらしい。
 前半はおもにその謎だらけの「ホルモー」を行なうための顛末について、後半はじっさいに他の大学と争われた「ホルモー」の結末について描いた本書であるが、さすがに大学生の若い男女が十人も集まれば、そこにさまざまな感情が芽生えたりするのはどうしようもないわけで、じつは「ホルモー」という謎の競技よりも、そうした人間関係こそが本書のメインだと言える。
 何かひとつの目的に向かって一致団結するには、いろいろ紆余曲折があるよね、という人間ドラマ的作品。使役される「鬼」たちの可愛らしさにも注目だ。
2007年本屋大賞
その他候補作

『一瞬の風になれ1〜3』
(佐藤多佳子 講談社)

『ミーナの行進』
(小川洋子 中央公論新社)

『陰日向に咲く』
(劇団ひとり 幻冬舎)

『図書館戦争』
(有川浩 メディアワ−クス)

『終末のフール』
(伊坂幸太郎 集英社)

『風が強く吹いている』
(三浦しをん 新潮社)

『名もなき毒』
(宮部みゆき 幻冬舎)

◆注目の大賞発表は4月5日(木)です。

  

− ちょっとしたひとりごと −
 今年で四回目を迎える本屋大賞。はたして大本命と噂される『一瞬の風になれ』が大賞をとるのか、はたまた無冠の帝王・伊坂幸太郎がとうとう戴冠か? あるいは当倶楽部イチオシ作品に決まるのか、といったイベント的な楽しみがあるのはたしかですが、「無名の作品に光を当てる」というのがそもそもの賞の役割であるとするなら、ここ最近のノミネート作がいずれも何らかの形ですでに話題となっている作品ばかりである、という点に不満を感じていらっしゃる方も多いというのが現状のようです。
 そこで、今回読書倶楽部がやったように、大賞になった作品はそれとして、たとえば書店は書店で独自の視点から独自の「本屋大賞」を選んでみる、という展開もあっていいのでは、と思ったりします。何も「本屋大賞」の決定に唯唯諾々としたがう必要はない、あくまで在野としての意見を発していく、というのも、また違った意味で本屋の活性化につながるのではないかと思うのです。
 見事予想が的中すればしめたもの、たとえ予想が外れても、あくまで店としてはこの本をオススメする! というスタンスをもつことができる本を見つけていく姿勢をこそ大事にしたいものです。