栗田読書倶楽部Web通信

2006年(平成18年)9月22日

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− 特  集 −
読書倶楽部メンバーによるオススメ本紹介
(その3)
 ●『ハルカ・エイティ』(姫野カヲルコ 文藝春秋)
 最近、故あって一人暮らしを再開したわけなんですが、まあ、これが結構ヒマ、というか自由時間が有り余って仕方が無い。では本でも読めばよいものだが、いろいろあって疲れ果て、そんな気も起こらない怠惰な日々、刻苦を厭う心が強い日々。それでは遺憾、いかん、と久々に手に取ったのが、父から借りた「ハルカ・エイティ」
 還暦を越えた父が姫野カヲルコをなぜ読むのか。初老のおっさんが読む作家と違うやろ。と思いつつページをめくる。ほほう、ハルカ・エイティとは八○歳のハルカおばあさんのことだったのか。ウルトラマン・エイティが八○年代のウルトラマンっちゅうのとは違うのね。そのハルカおばあさん、もちろんただの老人ではない。背筋の通ったスーツの似合う、ボーイフレンドを欠かさない上に、若い男にもよくもてる。そのわけは彼女が生まれてからの人生を辿っていくうちにわかってくる。男女七歳にして、の青春時代の初恋から戦争、結婚、戦後とあまりものごとにこだわらないハルカの生涯がたんたんと綴られていく。
 これだけでは昔の朝の連続テレビ小説なのだが、そこは姫野カヲルコ、独自の性愛論が随所に出てくる。引用すると
「恋の才能が女よりも格段に低いまま成長する男は、そのかわりに女より愛情に敏感である。(中略)思い出を大切にするのは女よりも圧倒的に男に多い」
「尊敬は必ずしもエロスの炎に結びつかない」
「きれいなつきあいとは、きれいな別れかたができるつきあいのことである。(中略)いずれにせよ、会っていたあいだの共有時間について、互いに感謝の意をのべあえる礼節を知るということである」
 だって。沁みる。心にヨーチン塗ったみたいに沁みるわ〜。でもなんか、そっか、そうことだったのか、と納得させられてしまうのである。姫野カヲルコに。癒されてしまったのである。ハルカさんに。(赤唐辛子)
 ●『そして五人がいなくなる』(はやみねかおる 講談社文庫)
 犯人は銀色の目の「伯爵」と名乗る怪人。ひとり目は舞台に吊り下げられた箱の中から――。ふたり目はジェットコースターから――。三人目はミラーハウス――。四人目は蝋人形館で――。伯爵は子どもたちを、人々の前から消した。さて、いかにもたよりない探偵、夢水清志郎に謎は解けるか?
 今回は、皆さんがあまり注目をしていないと思われる児童書の中から紹介します。本作品は、講談社青い鳥文庫の大ベストセラー「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズの第一作目です。児童向けミステリーであり、名探偵コナンの読み物版といったところでしょうか。
 しかし、児童向けだと思って馬鹿にしてはいけません。大人向け本格ミステリー顔負けのトリックが、これでもかという位詰め込まれています。それもそのはず、作者のはやみねかおる氏は、生粋の本格ミステリーマニア。そして執筆当時、教師であった作者は、読書嫌いの自分の生徒たちに読書(ミステリー)の面白さを知って欲しいと、自ら書き始めたのです。面白くないはずがありません!
 教師であった作者らしく、とにかく子どもを楽しませようという仕掛けがいっぱいです。私たちが子どもの頃体験した、読書をしているときのワクワク感と、ドキドキ感が味わえます。大人のファンが数多くいるというのも、うなずける話です。宮部みゆきさんの推薦帯にはこう書かれています。「はやみねかおるさんは子供たちだけのものではありません。」
 さて本作品ですが、この度講談社文庫化され、大人にも手に取りやすくなりました。ぜひ読んでみて下さい。そして何より、小学生くらいのお子さんがいる社員の方々、ぜひお子さんに本作品を読ませてあげて下さい!このような作品に子どもの時に出会えることほど、幸せなことはありません。(ミステリーS)
 ●『シャングリ・ラ』(池上永一 角川書店)
 いやーもう大興奮の一冊ですね! 熱帯化する東京、繁茂するジャングルにそそり立つ、超巨大空中積層都市「アトラス」――地球温暖化にともなう新しい経済観念として「炭素」という単位が導入された架空の近未来を舞台とした本書のなかで、なんといっても登場人物たちが動く動く。
 池上永一といえば、沖縄を舞台としたファンタジー作家として有名ですが、雑誌「ニュータイプ」連載ということで、良い意味でタガがはずれたみたいで、とにかく圧倒的なスケールでグイグイ読者を引き込んでいきます。まるでかつての宮崎駿アニメの象徴である「走る」「跳ぶ」をそのまま具現化したかのような女の子が、セーラー服で身の丈もあるブーメランを振り回して戦車をまっぷたつにするわ、SMの女王なさがら、長いムチを自在に操るオカマが戦うわ、科学の発達した未来の話なのに、なぜか人身御供や呪術といった非科学的な要素が出てくるわ、もうやりたい放題やっちゃった、という感じにもかかわらず、だからこそというべきか、登場人物たちはどいつもこいつも魅力的(しかもしぶとい)。
 そして驚くべきなのは、そんなムチャクチャな登場人物たちが縦横無尽に暴れまわるという話にもかかわらず、物語のほうがしっかりとしかるべき結末へと収束していくという点。この作品がこんなにも面白いのは、世界再生という神話的な要素と、貴種流離譚という物語の王道をまるっと取り込んで、その魅力を登場人物たちがいかんなく発揮した結果であって、これが面白くないわけがない。
 今の日本に足りないのは、本書のようなハチャメチャさ、パワフルさであるとつくづく思わされた一冊です。(本好きシステム屋)
読書倶楽部の選ぶ
06年上半期ベスト本

『ミステリアス学園』
(鯨統一郎 光文社)

ミステリ初心者向きです
『夢はトリノをかけめぐる』
(東野圭吾 光文社)

トリノの感動・興奮再び!
『陽気なギャングが地球を回す』
(伊坂幸太郎 祥伝社文庫)

映画のような展開の作品です
『鳶がクルリと』
(ヒキタクニオ 新潮文庫)

元一流企業ОLが鳶職人に!
『定食バンザイ!』
(今柊二 ちくま文庫)

散歩の達人が好きな人におすすめ
『サウスバウンド』
(奥田英朗 角川書店)

いろいろと考えさせられました
『町長選挙』
(奥田英朗 文藝春秋)

この本で奥田ファンになりました
『長英逃亡』
(吉村昭 毎日新聞社)

読破後、長英の強さを感じました
◆ぜひ読書の秋の参考にしていただきたいと思います。(つづく)

結婚祝いに贈る本
 私もこの歳になると、周囲にいる同僚はおろか、私よりも年下の友人や親戚でさえ身を固めていくという事態に見舞われ、結婚どころか彼女いない歴ウン年の私としては、周囲の唐突な「結婚します」宣言になぜか粘っこい汗をかいてしまうわけだが、そんな個人的な事情はともかくとして、一読書家としては、身近な人の結婚祝いに、たとえば図書カードなんかを贈るのは、いかにも素人臭くていただけないと思ってしまうわけである。
 というわけで、めでたく結ばれたふたりのあらたな門出にふさわしい本を二点ばかり紹介することにしよう。
『吉野弘詩集』
(吉野弘 ハルキ文庫)
 まずはオーソドックスなところで『吉野弘詩集』。本書には四季折々のイメージをつづったものから、日常生活にまつわるもの、言葉や自然といった、私たちの身近にありながらともすると忘れがちな大切なものを詠っているものが多く、ふとしたときにパラパラとつまみ読みすることができる詩集だが、結婚という行事にふさわしい詩として、ズバリ「祝婚歌」というものがある。結婚するふたりにはぜひとも幸せになってほしいものであるが、そのあたりの秘訣というのは、説教臭い祝辞よりも、あるいは詩に詠まれることで心に染み込むものかもしれない、と思わせる、じつに良い詩である。
 もうひとつは、これは絵本になるのだが、菊田まりこの『君のためにできるコト』。この本は、シンプルな絵柄とシンプルな内容であっという間に読めてしまうが、そこに込められたメッセージは非常に深いものがある。口下手なくまこちゃん、何も言わなくてもあれこれと世話してくれるくまおくん――伝えたい思いと溢れんばかりの気持ちで涙腺決壊すること間違いなしの一冊だ。
『君のためにできるコト』
(菊田まりこ 学習研究社)
 結婚式にかぎらず、誰かに本を贈るというのはなかなか難しいものだが、それだけに、贈った相手が本当に喜んでくれるとこちらの嬉しさもひとしおである。本に携わる者としては、このあたりのセンスもぜひとも磨いておきたいものである。